日本MA-T️工業会

ENERGY

エネルギー分野

脱炭素社会に繋がるMA-T®のエネルギー分野

メタンからメタノールへの酸化反応を実現させたことで、カーボンニュートラルの実現に大きく貢献したMA-T®。
メタンガスのエネルギー利用が重要な理由と、そこにMA-T®が果たす役割は何か?
脱炭素社会の実現に繋がる可能性を示したMA-T®のエネルギー分野について、現在の取り組みを解説します。

最高難度の化学反応を実現

2017年12月に大阪大学から「世界初!メタンガスと空気からメタノールを合成」とプレスリリースがあり、世界中の研究者が驚きました。大阪大学高等共創研究院・先導的学際研究機構の大久保敬教授らの研究グループが、MA-T®を用いて常温・常圧で空気とメタンからメタノールを作り出すことに成功しました。当時、メタンからメタノールへの酸化反応は、最高難度の 化学反応の一つであり、高温・高圧でも数%の収率であった。このMA-T®の研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載され、Very Important Paper(VIP) に選出され、表紙も飾りました。
大久保教授は、MA-T®を光で活性化することで得られる活性酸素と塩素ラジカルを用いて、メタンからメタノールとギ酸を生成できることを発見しました(図1)。
具体的には、塩素ラジカルがメタンから水素原子を1個引き抜き、そこに活性酸素が結合する仕組みであり、メタン酸化の収率は、ほぼ100%である。この反応は、二酸化炭素の排出がなく、低炭素化や脱炭素化の社会を実現する上で、早期実用化が求められています。

図1 メタンからメタノールとギ酸を生成

MA-T®でエネルギー革命

地球温暖化対策が喫緊の課題となっており、日本では2020年10月に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。
当工業会でも、2030年のあるべき姿として、「MA-T®の酸化制御技術を活用した サステナブルな社会の実現することを目的とし、気候変動対策推進や地球環境の保全、世界での感染症制御、新たな産業創造に寄与する」と SDGs宣言しています。特に、感染症対策とカーボンニュートラルに向けた環境負荷低減への対応に注力していきます。
一方、シェールガスやメタンハイドレートなどの非在来型天然ガス資源(存在は知られているが、回収コストが高いため、まだほとんど商業生産されていない天然ガス 資源)が注目されており、産業利用に向けて技術開発やインフラ整備が進められています。メタンガスのエネルギー利用を推進する上で、MA-T®の酸化反応によるメタノール製造技術は、ブレークスルーとなり、大きく貢献することが期待されています。
さらに、メタンの温室効果ガスとしての影響も懸念されています。温室効果ガスに占めるメタンガスの割合は15.8%であるが、二酸化炭素の20~25倍の温室効果があるとされており、削減による温暖化抑制効果は大きい(図2)。バイデン米国大統領は2021年9月に、メタン排出量を2030年までに20年比で少なくとも30%削減することを目標とする取り組みを始めると表明しました。
MA-T®でメタンをメタノールに変換すれば、エネルギー産出と地球温暖化対策の課題を同時に解決できるため、オープンイノベーションにより研究開発を加速させて、社会実装を目指します。

図2 温室効果ガスの総排出量に占めるガスの種類別の割合

カーボンニュートラルなエネルギー生産

大阪大学は北海道興部町と2019年6月に「家畜ふん尿から得られるバイオガスからメタノールを製造する技術開発と実用化検討を実施する」ことに対して、連携協定を締結した。最終目標は、カーボンニュートラル循環型酪農システムの構築である(図3)。2021年3月に開催した設立記念式典で、大久保教授に「MA-T®の酸化制御技術~カーボンニュートラル社会の実現に向けて~」と題した記念講演とパネルディスカッションで、この内容を詳しく紹介頂きました。
2021年7月には、興部町オホーツク農業科学研究センター内に大阪大学共同研究ラボ「OKPOU」が設置され、メタノールの量産化に向けた実験拠点となっています。また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2020年度「NEDO先導研究プログラム/新技術先導研究プログラム」追加公募 において、「家畜ふん尿バイオガスのメタノール・ギ酸変換技術の開発」が採択され、将来の国家プロジェクト等に繋げていくことを目的に、実証プラント建設に向けて、鋭意進行中です。
この取り組みは国内だけでなく、海外からの関心も高く、現在は乳牛のふん尿を利用しているが、他の家畜への応用やごみ処理施設での活用なども検討中です。当工業会でも国策や国際展開に向けたエネルギーワーキンググループ(WG)の立ち上げを準備しています。

図3 カーボンニュートラル循環型酪農システム
(大久保敬教授の発表資料より)